◆ご家族のアルコール依存症でお悩みの方へ◆
♣はじめに♦
家族の飲酒問題に苦しむ質問などが多く見られます。
しかし、質問も、それに対する回答についても、病気とは捉えておられない場合が多くあります。
また、アルコール依存症を病気として捉えておられた場合でも、「酒を取り上げる」
「強引に病院へ連れて行く」など無理な、そして無責任な回答も多く見られます。
これらの対応は、後で説明するように、正しい対応とは真逆な対応なのです。
そのような状況の中、誰にも相談もできず、どうする事も出来ずに苦しんでおられる場合も多いのではないでしょうか?
アルコール依存症という病気は、アルコール依存症者自身が断酒をしようと行動を起こさない限り、
解決の道が見いだせない病気です。
無理やり誰かに、酒を飲まないようにする事も、飲酒問題をなくす事も不可能なのです。
治療を受ける気持ちのないアルコール依存症者を、無理に病院へ連れて行っても、
専門医療機関なら、原則として入院は受けません。
アルコール依存症の治療は、アルコール依存症の専門医療機関が不可欠なのです。
そういう意味でも、周囲の人は「無力」です。
もし、ご家族が保健所や精神保健福祉センターなどの専門機関を訪れても、
「本人が治療する気にならないと、何ともできませんね・・・」という冷たい答えだけで終わってしまう事も、
多く聞いております。
でも、アルコール依存症は、ご家族など身近な方が正しい行動を始める事によって、
アルコール依存症者自身に、断酒をする気持ちを芽生えさせる可能性もある病気です。
★家族への介入によって、アルコール依存症者へは何ら関わりをもたない場合でも、
事態の好転が見られるケースもあります。
ここでは、ご家族が行動を変えれば、事態の好転が導き出せる可能性も高まる、という立場から、
ご家族が可能な具体的な行動などを説明いたします。
もし、ご本人から断酒という結果を中々導き出せない場合(治療への導入が困難な場合)であっても、
ご家族の苦痛、苦労を軽減する事も不可能ではありません。
これを通じて、アルコール依存症者自身が「底に着く」のも早められる可能性も高まります。
これも「底上げ」の一つです。



♣「巻き込まれ」と「共依存」について
・・・飲酒中のアルコール依存症者と一緒に暮す事とは?・・・♦

<家族ぐるみの病気>
アルコール依存症は「家族ぐるみの病気」 です。
飲酒中のアルコール依存症者を身近に持っておられる方(ご家族など)は、様々な苦しさ、恥ずかしさ、恐怖などを味わい、
そして誰にも相談も出来ずに耐えておられます。
また、“私が悪いから、〇〇は飲むのかしら?・・・” と、ご自分を責めつつ、
“私は被害者” という相反する気持ちを引きずりながら、出口の見えない日々を送っておられる場合も多いものです。
そのような状況の中、多くのご家族は、孤独なまま 飲酒行動に巻き込まれて疲れ果て、心のバランスを崩してしまうのです。
その為、アルコール依存症者の周りには、「酒を飲まない病人が生まれる」 とも言われています。
その結果、ご家族が疲れ果てるだけではなく、健康的な対応が出来ず、「善かれ」という気持ちからとった行動が、
逆にアルコール依存症を進行させてしまうのです。
これが「巻き込まれ」 です。


<負の世代間連鎖>
両親共にアルコール依存症などの依存症である場合には、安心して成長できないという状況が、容易に理解できます。
しかし、両親のどちらか片方だけがアルコール依存症の場合でも、アルコール依存症でない親の多くは、
アルコール依存症の配偶者との関係に囚われてしまい、「親としての機能」が果たせなくなっていきます。
*巻き込まれたご家族とアルコール依存症者との不健康な関係を「共依存」 と呼びます。

「共依存」 に陥っている両親の元で子供時代を送るという事は、家族機能の不完全な環境で育つ事を意味します。
これを「機能不全家庭」と言います。
不健康な関係は、世代間を超えて伝わってしまう事も多くあります。
★これが「負の世代間連鎖」です。


<病気の進行を後押ししてしまう>
アルコール依存症は「否認の病気」と言われ、この「否認」がアルコール依存症の難治性の原因の一つなのです。
そして「巻き込まれ」は、この「否認」を強化する要因にもなっています。
「巻き込まれ」行動と「否認」との」関係を、見てみましょう。


[否認を強化するもの]
アルコール依存症は「否認の病気」 と呼ばれています。
この「否認」が、アルコール依存症を難治性にしているとも言えます。
「否認」という現象は、アルコール依存症者の心の中にまず生まれます。


○ブラックアウト
そもそもアルコール依存症者の多くは、薬物アルコールの影響によって、自らの酒害を正しく記憶にとどめていない事が多いのです。
これが「ブラックアウト」と呼ばれる現象です。
この「ブラックアウト」という現象を目の当たりにして、身近な人は、さらに「巻き込まれ」ていくのです。


○防衛機制
「否認」は、飲酒のコントロールを失っていく過程で起こる心の防衛(防衛機制)です。
誰しも、自分が酒に負けるなどという事は、そう簡単に認められる事ではありません。
特に、世間に行き渡っている「アル中」イメージの影響も強いものです。
言い換えると、「否認」という、心の防衛の上着をより必要としてしまうのです。


○周囲の巻き込まれ行動によって強化される
「否認」とは、アルコール依存症者自身が、自らの酒害を覚えていないと言う事と、
飲酒のコントロールを失っていくという現実から自尊心を守る為の防衛なのですが、
それは周囲の人との間の関係(巻き込まれに基づく言動)によって、もっと深められていきます。
①「ブラックアウト」によって飲酒時の記憶が抜け落ちます。
②さらに、巻き込まれたご家族などの行う「後始末」によって、酔っていた時の痕跡が、
綺麗さっぱりなくなっている事も多々あります。
このような「巻き込まれ」に基づく身近な人の言動によって、アルコール者は、
自分自身の酒害と直面化ができなくなっていくのです。


○依存症プレー
病気とは思えず、つい責めたててしまうご家族などの言動から、崩れかけている自尊心を守ろうと、
より頑になり、アルコール依存症の心の問題である「否認」が深くなっていくとともに、
ご家族など身近な人は、さらにアルコール依存症者の飲酒問題に囚われ、目の前で起こる出来事に囚われていきます。
そこで繰り返される出来事は下記です。


<ご家族の行動>
・常に飲んでいるか否かをチェックしようとする。
・飲酒していると責めたてる。
・酒を取り上げる、酒を流しに捨てる。
・酒を買いに行こうとしたら、必死になって止める。
・その一方で、飲んだ後始末を始める。
・「今度飲んだら離婚する」etc と、言葉の脅しを使ってしまう事もよくあります。


<アルコール依存症者の反応>
・隠し酒をする。
・暴力、暴言を使って酒を手に入れるようになっていく。
・飲酒の責任を家族などに転嫁していく。「お前が言うから、俺は酒を飲むんだ!」etc
・さらに酒害の自覚が薄れていく(否認が深まる)


*この「泥沼」とも言える状態が「依存症プレー」です。
これを続けている限り、よほどの事がない限り、アルコール依存症者自身が酒害を認めてる可能性は出てきません。


★ポイント
アルコール依存症となった人の多くは、無抵抗にアルコール依存症となったのではなく、
必死にアルコールと闘って敗れているのです。
この事実を目の当たりにし、崩れかけている自尊心を保つ為に「否認」 が生まれ、
この心の動きが逆に病気を進めてしまうのです。
さらに「否認」は、周囲の人との関係で深められるものなのです。ここが重要なポイントです。
☆アルコール依存症者から「断酒しなければ」という気持ちを引き出す為には、ご家族の行動の変容が必要なのです。


♣ご家族ができる治療的行動
・・・アルコール依存症の家族を持つ人に出来る事・・・♦

<知識を持つ>
アルコール依存症という病気は、知られているようでも、実は、正しい情報は、そう行き渡っている訳ではありません。
まずは、病気としてのアルコール依存症に関する正しい知識を持ちましょう。


<正しいサポートを受ける>
・アルコール依存症の相談窓口は保健所や精神保健センターです。
・精神保健センターでは、アルコール依存症の家族教室を開催している所も多くあります。
*相談員に支えて貰いましょう。


<仲間に支えて貰う>
・アルコール依存症は「人を巻き込む病気」 とも言われ、適切な支えを持たずに進行中のアルコール依存症者に接すると、
心のバランスを崩してしまいます。
結果的に、その想いと裏腹に、アルコール依存症を進行させるような行動をとってしまうものです。
このような関係の歪みは、前に説明した「共依存」 です。
「共依存」 とは一種の「依存症」(人に対する依存症)です。
したがって、保健所などのサポートだけでなく、同じ問題を克服された家族グループのメンバーや
断酒会の家族会員など「先ゆく仲間」に支えて貰う事が重要なのです。
・家族グループの仲間に支えてもらう為には、断酒会へ出席を。
☆ご家族が断酒会に出席する場合、家族会だけでなく、普通の断酒例会にも出席を、お勧めします。

<正しいスタンスで接すること>
・家族は無力
アルコール依存症者の飲酒は、周囲の人の力で止めさせる事も、酒量を減らす事も不可能です。
☆この無力こそ、正しい対応の出発点です。
・後始末をしない
よほど危険でない限り、飲んだ後始末はしない。
先に触れたように、アルコールの影響で、アルコール依存症者の多くは、酔っていた時の記憶が曖昧になり、
その一部分~大部分の記憶が抜け落ちている事が多いものです。
これが「ブラックアウト」 と呼ばれる現象です。
*アルコール依存症者自身が自分の酒害に気づくこと、言い換えると正しい認識を持つ事が、回復への前提条件なのです。
・飲酒していても責めない、酒を買いに行こうとしても闘わない。
責めない事が大事であるという根拠は、アルコール依存症を難治性の病気としている「否認」を強める要素が、
巻き込まれた周囲の人などが、ついついやってしまう「責める」という行為にあるからなのです。
★アルコール依存症者が自分の酒害を直面化するのは、周囲から責められるという構図ではありません。
さらに、酒を買いに行こうとしても闘わない事が大事です。その場で酒を買う事を阻止しても、
断酒する気のないアルコール依存症者は、必ず別と手段で酒を入手します。


・隠し酒を見つけても捨てない。
何故かと言うと、隠し酒を見つけて捨てたとしても、ほとんどのアルコール依存症者は、
断酒をする気持ちにならない限り、いくらでも酒を買いに行く事、手に入れる事が出来るのです。
目の前の酒を捨てる事など、何ら解決にもなりません。
★酒を買いに行くところを必死に止めたり、隠し酒を処分する事は、回復という観点から見ると、真逆の行動なのです。
何故なら、アルコール依存症者の飲酒は、ほとんどの場合、自分自身の飲酒のコントロール障害の為に、
飲酒を続けられなくなってしまう(限界がくる)ものなのです。
また、これを経ないで自分の酒害を認める事は、ほぼ不可能なのです。
★周囲の人が、飲酒を止めたり隠し酒を処分しているなら、本来、持って欲しい認識である「自らの飲酒の限界」
という事実が持てず、周囲の人との関係にすり替えられてしまい、
「お前がしつこいから俺は酒を飲むんや!」など、ますます直面化ができない状況が固定化していきます。
・言葉の脅しは、決して使わない。
その気持ち準備もないのに、「今度飲んだら 離婚する」etc と口にされる場合も多いものです。
今後は、口に出した事は実行して下さい。実行出来ない事は、口に出さないで下さい。
そうでなければ、言葉の重みが失われます。


・暴力に対して、絶対に闘わない。
力で対抗しても、お互いに傷つくだけです。
また、暴力を受ける事も避けましょう。
多くの場合、正しいスタンスで接していくと、暴力などの発生も少なくなっていきます。


☆正しい対応を、ご家族などが始めると、修羅場は確実に減少します。
しかし、正しい行動をご家族が始めた事にアルコール依存症者が反応し、暴力を振るうという事もあります。
したがって、危険を感じたら、闘わずに離れる事をお勧めします。一時的に親戚の家や友人の家に避難する、
そんな避難する場がない場合には、DVの相談窓口を利用するとか、ウィークリーマンションという手もあります。
ともかく、闘わない、そして暴力を受ける事も避けて下さい。
★あくまでも、ここで説明しているのは、飲酒をめぐるやり取りから発生する暴力です。
ですから、嫉妬妄想基づく暴力や、危険な暴力が予測される場合(すでに繰り返し起こっている場合)には、
身を守る事を第一に考えて下さい。


・小さな変化に、一喜一憂しないで下さい。
断酒会に出席されていても、時には飲酒される時もあります。
しかし、周囲の方が正しいスタンスで接していく事で、その飲酒という体験でさえ、断酒の為のステップになる事もあります。
ご家族ができる事は、正しい知識を持って、正しいスタンスで接する事と、家族グループに出席を続ける事だけなのです。
*正しい対応を、保健所や精神保健センター、断酒会のメンバーの支えで継続出来れば、
ご本人の心の中にある「断酒したい」という気持ちが引き出せる可能性も高まります。
☆どのようなアルコール依存症者であっても、心の奥底には、問題を解決したい、
何とか普通に生活したいという気持ちがあります。
ただし、この気持ちが空回りするからこそ、「否認」が深まるのです。
★否認を解くには、イソップの寓話「北風と太陽」 にある、“太陽の暖かさ” が必要なのです。
したがって、飲酒行動を見た時に、アルコール依存症者を責めても、治療的ではありません。
でも、適切な支えを持たずに、ご家族が「太陽の暖かさ」を、進行中のアルコール依存症者に向ける事は不可能です。
頭では分かっていても、ついつい責めてしまうものです。
ここにも家族グループの仲間の意味があります。


♣その他♦
<正しい対応を始める前に>
・多くの場合、親戚などから責められます。
正しい対応(飲酒の責任を、ご本人にお返しする事)を始めると、多くの場合、アルコール依存症を知らない、
そして無責任な人が登場します。
そして「非情な嫁」などと責め始める事も多々あります。
☆孤独は禁物です。
・必要なのは、アルコール依存症を熟知した味方
その為、アルコール依存症を熟知した味方を作っておきましょう。
これは、単に良い人ではダメです。必ずアルコール依存症を熟知しているという事が条件です。
断酒会の家族会員やアラノンのメンバー、保健所や精神保健センターの相談員などが適切です。
☆こういう意味でも、正しいサポートを受ける必要があるのです。


<アルコール依存症者と家族は、車輪の両輪の如く悪循環に陥る>
・アルコール依存症者一人だけでは、そうそう飲酒を続ける事は出来ないものです。
遅かれ早かれ破綻し、飲酒の限界という壁に当たってしまいます。
・しかし、巻き込まれ行動をする人が身近にある場合、中々この限界に直面できなくなっていきます。
ポイント!
・もしアルコール依存症者が飲酒を続ける場合、その裏側に、飲酒を助ける要因となっている、
ご家族の「巻き込まれ」行動がないか、また、ご家族として正しい協力が出来ているかをチェックして下さい。
・ご家族以外にも、ご本人の飲酒を結果的に手助けしている人がいないかというチェックも必要です。
かかりつけの内科の開業医などが、これをしている可能性もあります。
☆アルコール依存症者は、イネイブラーがいないと、そうそう飲酒を続けられるものではないのです。


♣まとめ♦
アルコール依存症は、進行性で致死的な病気です。
また、再び普通に飲酒できる身体には戻らないという意味で、治癒しません。
さらに、周囲の人がアルコール依存症者を、無理やり治療の場に引っ張りだしても、治療効果はありません。
アルコール依存症の専門医療機関では、原則として精神保健福祉法に基づく「任意入院」を基本としています。
*強制入院を抵抗もなく受け入れている医療機関は、専門医療機関ではない可能性が高いと言えます。
したがって専門機関で、「本人が断酒する気にならないとダメです」とよく言われるのです。
残念ながら、専門医療機関や保健所、精神保健センターの相談員であっても、ここまでしか言えない場合も多いものです。
しかし、ご家族などの正しい行動によって、その気を引き出す事も不可能ではないのです。
要は、ご家族が「巻き込まれ」に基づく行動を、如何に止めるか、という事にかかっているのです。
★言い換えると、ご家族が、飲酒中のアルコール依存症者からの影響から自由になった程度に比例して、
アルコール依存症者は、自分の酒害に向き合えるのです。

①まず、正しい知識を
②正しい相談窓口を(保健所や精神保健センター)
・もし“本人が、その気にならないとね・・・”と片づけられた場合には、下記の行動です。
③家族グループや断酒会へ、ご家族だけで出席を始める。
・前述の断酒会です。
④正しいスタンスで対応する
・アルコール依存症者へ、飲酒の責任を、お返し下さい。
・飲んだ後始末も、よほど危険でない限りしないで下さい。
・責めない、闘わない。この場合、アルコール依存症者への怒り、恨みを、如何に処理するかが、その効果を左右します。
*その為にも③が大事なのです。
★以上が、治療意思を持たないアルコール依存症者から、治療を受ける気持ち(する気持ち)を引き出す一つの方法なのです。
アルコール依存症は「底着き体験」を経て回復に向かう訳ですが、この「底着き」を早める事が大事なのです。
これを「底上げ」 と言います。
明けない夜はありません。
正しい対応を続ける事で、ご本人が回復に向かう可能性が出てきます。
諦めずに、ご家族が出来る事を始めて下さい。

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