アルコール依存症ってなに?

アルコール依存症という病名はしっているけど、実はそれほど深く理解されていないのが現状です。
どんな病気でどういう回復が出来るのか?
改めて考えてみたいと思います。

はじめに

アルコール依存症は「飲酒コントロールが出来なくなった病気」です。
飲酒コントロールが出来ないということは、連続で飲み続けることだけを指してはおりません。
間欠的に飲み続ける(ある期間飲み続け、身体が弱ると飲めなくなり、身体が回復するとまた飲み続ける)
ことも飲酒コントロールが出来なくなったと理解しています。
要は、「飲酒してしまうと問題が生じる」ことが「飲酒のコントロールが出来ない病気」ということなのです。

病気というと、本人の症状だけに対応が集中しがちですがアルコール依存症はそうではありません。
病気の進行につれて周囲に様々な影響を与えていきます。

そのため、アルコール依存症は、本人が断酒を志し、断酒継続をするだけでは、回復が難しい病気とも言えます。


どんな病気?

どんな病気も症状が出ます。アルコール依存症も例外ではありません。
この項では「身体症状」「精神症状」「社会的症状」について考えてみたいと思います。


1 身体症状

① アルコールに対する「耐性」ができます

長期の飲酒を続けた結果、今までの飲酒量では満足した酔いが得られません。
酒量が増加しより深い酔いを求めてしまいます。
このことを「アルコールに対して耐性が出来た」と言います。
知らず知らずに飲酒量が増えていなかったでしょうか?

② お酒が醒めてくると「離脱症状」が出ます

どんな酒豪でも限りなく飲み続けることは出来ません。
そんなことしたら急性アルコール中毒で死んでしまいます。
どこかで飲酒をやめお酒を醒ますことになります。
そんな時、アルコール依存症者には、「離脱症状」が発現します。
これは、身体的にも精神的にも不快感を伴うものです。
この離脱症状は飲酒をすることにより解消されていくので、断酒がなかなか出来ない要因のひとつになってしまうのです。

早期離脱症状群

断酒すれば数日で楽になる症状ですが、飲酒することにより消滅するためなかなか断酒に踏みきれません。
症状は
   ①手や全身の震え
   ②発汗(特に寝汗)
   ③不眠
   ④吐き気
   ⑤嘔吐
   ⑥血圧上昇
   ⑦不整脈
   ⑧焦燥感
   ⑨集中力の低下
   ⑩幻聴(アルコール性幻覚症・・人の声が聞こえ、悪口を言われたり命令されたり等)
   ⑪てんかん様けいれん発作(90%以上が断酒2日以内に発病)などがあります。

後期離脱症状群(別名:振戦譫妄)

酒を断った2〜3日後に生じ、3日位で消滅しますが、まれに3ヶ月程続くことがあります。
症状は
   ①幻視(実際には見えないものが見え、幻聴を伴うこともあります。)
   ②見当識障害(時間や場所、人物の見当がつかなくなります)
   ③興奮(不安が生じ興奮することもあります)
このほか、発熱、発汗、振戦など自律神経症状を伴う事が多く、
これを繰り返しているとコルサコフ症候群などの重度の脳障害を起こして回復しない場合があります。

うつ病や不眠を訴えます

多くのアルコール依存症者が飲酒を続ける原因として「うつ病」や「不眠」があります。
酔えばハイな状態になり、醒めれば元に戻ります。
この繰り返しを続けていると気分の落ち込みが生じてきます。
落ち込んだ気分を高めるためにさらに飲酒を続けてしまうのです。
また、飲酒で脳を抑制し睡眠を得ているため、酒が醒めると中途覚醒し不眠の原因となります。

アルコールが起因する身体疾患

アルコールを飲み続けると肝臓障害を起こすことは知られていますが、
それに伴い様々な身体疾患を合併することは、あまり知られておりません。
アルコールが起因すると言われている身体疾患には次のようなものがあります。

 アルコールが起因する身体疾患
発生部 病 名
肝臓
脂肪肝、アルコール性肝炎、肝硬変
胃腸
急性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吸収不良性症候群
食道
食道炎、食道静脈瘤、食道がん、マロリーワイス性症候群
中枢神経
ウエルニッケ脳症、コルサコフ病、肝性脳炎、痴呆
抹消神経
アルコール性多発神経炎

中毒性弱視
骨格
大腿骨頭壊死
筋肉
アルコールミオパチー
造血
貧血
代謝
糖尿病、痛風
その他
インポテンツ、胎児性アルコール症候群


2 精神症状

アルコール依存症は様々な精神症状を発症します。
まず現れてくるのが「否認」という精神症状です。
否認とは「自らの飲酒問題を認めない」という心の動きや行動パターンを言います。
このような否認を繰り返した結果、「自己中心的」「現実逃避」「刹那主義」といわれるような、
アルコール依存症者特有の精神構造が作られてしまうのです。

否認

アルコール依存症者の否認には様々なものがあります。その代表的な否認パターンを次に紹介します。

① 全面否認

    自らの飲酒問題を全く認めません。
    「自分の金で飲んでる。何が悪い!」
    「大酒飲みだが誰にも迷惑をかけていない!」

② 他罰否認

    飲酒問題をすり替え周囲のせいにします。
    「お前がうるさく言うから飲むのだ!」
    「こうなったのはアイツのせいだ!」


③ 部分否認

    飲酒問題を認めざるを得ない状態になりましたが、今度はコントロールして飲もうとします。
    「問題があったが今度は上手く飲む!」



自己中心的な生き方

アルコールに対する耐性の出来たアルコール依存症者は、飲酒することが第一となっています。
飲酒のコントロールが出来た時期もありましたが、末期になると変わっていきます。
まず、飲酒してから全てのことがスタートするのです。
「お酒を控えたら・・・」とか「飲まないで!」といった苦言も、
言葉としては理解できても飲酒行動を止めることができません。
そんなアルコール依存症者は、周囲から「なんて身勝手な、
自己中心的人間なんだ!」と映ってしまうのです。


現実逃避

否認を続け、自己中心的な生き方をしていくと飲酒問題はさらに深刻化していきます
そんな中で取る手法として「現実逃避」があります。
飲酒することに逃げ込み、抱える問題処理を後回しにしていきます。
また、周囲に隠れて飲酒する「隠れ飲み」も現実逃避のひとつと考えられます。


刹那主義

やがて、「もうどうにでもなれ・・・」という心理状態になります。
深い酩酊だけが心休まる状態となっていくのです。
「酒で死ねれば本望だ・・・」とか「希死念慮」が見え隠れし、
「今さえ良ければ・・・」という考え方に凝り固まるのです。


このような精神症状は、「精神疾患」とはまた違うものです。
断酒が続き、断酒生活を楽しむようになってくると自然と消えてくるものです。
よく「あの人は酒さえ飲まなければいい人なのに・・・」と言われてきました。
そうです!アルコール依存症になる前の人格を取り戻してくるのです。
断酒を始めても「いつまた飲むのか」という気持ちを抑えられず、
懐疑的な視線や態度でアロコール依存症者に接し、再飲酒の原因となる場合もあります。
断酒会は「家族同伴」を大事にしています。
断酒会には回復を始めた人、回復が順調に進んでいる人等、様々な人がいます。
本人も家族も、そんな人達を見て回復することを信じ、
共に行動することで、回復につながりことが出来るのです。


3 社会的症状

病気の症状として直接関係ないかもしれませんが、
アルコール依存症は周囲を巻き込んでいく病気です。
そのため社会的な症状も出てきます。


仕事への影響

飲酒することが第一となるため仕事への影響が出てきます。
週末の大量飲酒が原因で月曜日の欠勤が続いたり、自営の方もいつも通りの仕事が出来なくなります。
そんなアルコール依存症者を見て周囲は、避難したり飲酒を控えるよう訴えますが効果はありません。



家族関係の崩壊

飲酒問題を解決したり、防ぐために、家族は様々な試みをしていきますが効果は上がりません。
ますます問題は深刻化していきます。
やがて、アルコール依存症者を無視したり、避難を繰り返します。
そんな中で家族関係は崩壊します。



地域での孤立

「世間が悪い」と飲酒問題を必死で隠そうとします。
「昨夜の大暴れを近所はどう見ているのだろうか・・」と、家族は不安やバツの悪さを抱えます。
「何か聞かれないだろうか」と近隣との付き合いを避けるようになります。
また、アルコール依存症者本人も飲酒して近隣とのトラブルを抱えたりと、
地域でも孤立してしまうのです。




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